「Type FOLDING」誕生 その7(最終回)Tartaruga Type FOLDING 発売

台湾出張からの帰国後、私は様々な社内外関係メンバー

との調整を行い、無事、量産工場を Pacific Cycles 社に変更しました。
量産工場を Pacific Cycles 社に変更した事を、Pacific Cycles 社に伝え、改めて量産へ向けた打合せを重ね、Pacific Cycles 社版試作車両の製作を行いました。

Pacific Cycles 社版試作車両一号機

完成した試作車両を携え、ジョージさんが来日され、早速試乗したその試作車両は、最初に日本で作成した試作車から、格段の進化を遂げていました。
「化けましたね!」
その試乗の席に参加した、当時の同僚が漏らしたこの一言が、とても印象に残っています。

Tartaruga Entertainment Works 起業

ここまでお話して来た様な経緯を経て、ようやく量産が見えてきたこのプロジェクトでしたが、残念ながら様々な事情から、最終的にナムコからの発売ができないという状況となってしまいます。
その事に、どうしても諦めがつかなかった私は、このプロジェクトを譲り受けて退社、自らデザインスタジオ Tartaruga Entertainment Works(タルタルーガ・エンターテイメントワークス)を起こし、ここを母体として発売を目指す事となります。
退社を決めた後、改めて Pacific Cycles 社を訪ね、「企業の看板が外れてしまいますが、今まで通り、今度は私個人と取引してもらえませんか?」とジョージさんに尋ねると、
「勿論だよ。私は ‘キミ’ の考えたデザインが気に入ったんだ!」と即答してもらいました。
この時の事は、今でも忘れられない思い出です。

またこの時、お願いついでに、Pacific Cycles 社の出展しているユーロバイク(ドイツ)等の海外の展示会にも、自分の商品を展示させて欲しいと交渉、私が毎回自費で参加する事を条件に、こちらも快諾をいただき、以降毎年様々な海外の展示会の Pacific Cycles 社ブースにジョイントする事となります。

余談ですが、この日の打合せをきっかけに、Pacific Cycles 社とはその後長い付き合いとなりました。
全ての弊社製品の開発生産をはじめ、今では、社外開発スタッフのメンバーとして、様々なPacific Cycles 社内のプロジェクトにも従事しています。

ハンドリング感覚を更にブラッシュアップ

その後も、発売に向けて Pacific Cycles 社と共に、更なる改良を重ねました。
特に最初の試作で気になっていた、ハンドリング感覚に関しては、Pacific Cycles 社から提案されたトレールの最適化により、かなり改善はされていましたが、何よりこの商品の肝と位置づけ徹底的にこだわりました。
図面上での検討だけでは、実際の感覚の確認をしようが無いため、センタリングを補助する、センタースタビライザーを装着する事で、更に改善を行った上で、前輪の固定位置を設計上のスイートスポットを中心に、前後に㎜単位の調整ができる特殊なフロントフォークを製作して、少しずつ前輪の固定位置を変えながら、弊社近くにある長い坂道を何本も何本も自分で下りデータ化、その上で私が最も気持ちがいいと思った位置関係を使って、量産する事にしました。
その結果、ゆるい下り坂での「絶妙で鳥肌物の、気持ちいいハンドリング感覚」を実現しています。

また、背もたれの形状についても、Pacific Cycles 社からの提案に満足できなかった私は、新たに背もたれのデザインと設計を自分で起こし直しましたが、ジョージさんと意見が対立したため、新デザインの試作も製作して最終的に私も含めた関係者全員で、双方を比較する検討試乗会を Pacific Cycles 社にて行い、激論の末、新デザインを量産形状とする事を決めました。

背もたれ形状の検討試乗会

Tartaruga Type FOLDING 発売

こうして、退社後半年程の準備期間を経て、遂に2001年11月にエモーショナル・ビークル第一弾 Tartaruga Type FOLDING として発売を開始しました。
Tartaruga Type FOLDING は、私の考える「乗ってワクワクするヒューマンパワーの新しい乗り物」を、最もわかりやすく具現化した商品です。
一般的な自転車のロジックで捉えられると、容易に説明のつかない点が多々あるかと思います。
しかし、そういった論理的な解釈や、説明は全く不要で、ただただ、サドルに腰をおろしてペダルを漕いでみると、実に気持ちがよくて、思わず笑みがこぼれる。
そんな「感覚」をデザインして、カタチにした商品です。
この「感覚」を実現するために、考え得る様々な要素を、バランスを取りながら詰め込み、「乗車した時の、見える景色のすばらしさ、ペダルを漕ぐことの楽しさ」を追求しました。
そして、この新感覚の乗り物 Tartaruga Type FOLDING は、2001年の発売開始以来、生産の度に細かなブラッシュアップを重ね、現在 Ver.1.7 まで進化してきました。

最新版 Ver.1.7

その結果、一見した印象は、それほど変わっていませんが、充分に熟成され、最初期のモデルと Ver.1.7 を乗り比べると、その乗り味は驚くほど進化を遂げています。
発売当時にお試しいただいたことのある方も含めて、機会がありましたら、是非御試乗いただき、その感覚をご自身でお試しください。