「Type SPORT」誕生 その1 プロジェクト「REACH」

「Type SPORT」誕生 その1 プロジェクト「REACH」

2001年の独立起業以降、Type FOLDING の量産に向けた

開発業務などを通して、私と台湾のPacific Cycles 社との関係は、年を追うごとに親密になっていきました。
いずれまた触れる機会があるかもしれませんが、2003年に行ったType RECUMBENTの開発の際は、2か月間 Pacific Cycles 社に滞在して、ジョージさんやR&D(開発)部門のメンバーと昼夜の議論を交わし、試行錯誤の上で進めるなど、開発、生産を、Pacific Cycles 社で行う中で、私は率直な意見や問題点の指摘、その解決策の論理的な提案を心掛け、様々なディスカッションを繰り返し続けた結果、幸運な事に、ジョージさんをはじめ各セクションのリーダー達との間に、信頼の様な物を築いていく事ができました。
これには、前職であるナムコ時代の経験がとても役に立ちました。

「量産」の規模

一言に「量産」と言っても、その規模は業界や会社によって、それこそ様々です。
1つのモデルを、何万台単位で生産する「量産」と、300~1000台位の単位で生産する「量産」では、その量産に掛ける型代等の投資を含めて、手法が大きく異なります。
また、手のひらに乗る位のサイズの商品なのか、人が乗り込むようなサイズの商品なのかでも、同様に異なります。
大量に生産する小型の商品であれば、大きな投資を行い射出成型等の型を起こして、安価に大量な生産が容易に可能ですが、少量で大型となると、大きな投資が難しい為、様々な創意工夫が必要となります。

前職だったアミューズメントマシンの量産規模は、まさに後者の規模、後者のサイズ感でした。
偶然にも、Pacific Cycles 社の量産規模と製品のサイズ感も、同じく後者の部類だった為、前職でのモノ作りの経験がともて活かせたのだと思います。
ある日、「ヨシマツさんは、自転車を作った事が無いのに、何で自転車作りについて色々と知っているんだ?」とジョージさんから質問されたことがありました。
「自分は、自転車を作ってきた経験はありませんが、モノ作りには長年携わってきました。基本的な考え方は、同じだと思っています。」と、上記量産規模とサイズ感の話を交えて答え、納得してもらった事がありました。
またある時は、ジョージさんとの会話の中で、RALEIGH(ラレー:英国の老舗自転車ブランド)というブランドの話が出た際に、「ラレーって何ですか?」と私がたずねると、「君は、自転車を作っているのにラレーを知らないなのか! 信じられない!! そんな奴は初めて見たよ。 全く新しいタイプの人間だな・・・」と、絶句されたりもしました。

「折畳めるロードレーサー」を開発するプロジェクト

2003年「折畳めるロードレーサー」を開発するプロジェクトが、Pacific Cycles 社創業者ジョージさんのパーソナル企画としてスタートします。
後に、「REACH」と命名されるこのプロジェクトは、走行性能を出来るだけ高めた上で、折畳んだ際のサイズを、出来るだけ小さくする為に、タイヤサイズは 451(20インチ)に決まります。

タイヤサイズは 451

ここで、少し補足をすると、ちょっとややこしいのですが、自転車のタイヤの規格にはHE規格(インチ + 小数点表記)とWO規格(インチ + 分数表記)の2種類があり、同じ20インチという呼び方でも、直径が大きく異なります。
その頃は、一般的に自転車で20インチと言うと、HE規格(406)を指していましたが、このプロジェクトには、より走行性能を高めるために、当時としては異例な、50mm近く大きなWO規格(451)を採用しました。
小径車、特に折畳み自転車の設計では、折畳んだ際のサイズと走行性能のバランスという観点から、このタイヤサイズの選定が非常に大きな要素となります。
タイミング的にも、当時あまり選択肢のなかった 451 サイズで、110PSIまで入れられる、とても高い空気圧対応のタイヤが発売された事にも起因します。

前出の通り、私はTartaruga 製品の生産確認等、年に何回かPacific Cycles 社を訪問していたのですが、その度に、ジョージさんが進めている様々なプロジェクトの進捗状況を、社内を案内してくれながら、嬉しそうに説明してくれるようになりました。
その中に、このプロジェクトも含まれていました。
このプロジェクトに関しても、常に自分が感じたり思ったりした意見を具体策も含めて、率直に述べました。
その結果、私の意見の幾つかが、次のステップに取入れられる様になり、そういった事を繰り返す中で、次第に私自身もこのプロジェクトに、より興味を持つようになっていきます。

EURO BIKE 2004

2001年以降、Pacific Cycles 社の出展する様々な海外の自転車ショーに、毎回私もPacific Cycles 社のブースにジョイントして、Tartaruga ブランドの商品を出展するようになりました。
2004年、この年のユーロバイク(ドイツ)に参加すべく、ショー前日にブース設置の為、ショー会場でPacific Cycles 社のメンバーと合流した際に、ジョージさんがハンドキャリーして来た、このプロジェクトの最新の試作車を見せられ、試乗した時の驚きは、今でもハッキリと覚えています。
当時、それほどスポーツ自転車に対して興味自体を持っていなかった自分が乗っても、気持ちよく走り、小径車にありがちな変なクセも少ない素直なハンドリングは、まだ開発途中の試作車両にも関わず、驚く程走りの質の出来がよく、感動すら覚えた私は、「これなら自分でも買いたいかも!」と率直に思いました。
それを機に、ますますこのプロジェクトに入り込んでいく事となり、最終的にType SPORTの制作にいたる事となります。

つづく