「自転車と旅」取材話 鹿児島編 その2 長島

「自転車と旅」取材話 鹿児島編 その2 長島

2011年2月初旬には、前回の内容の計画をたて、編集長

からの承認も頂き、取材日は3月29日、30日と決まりました。
2月下旬から生産立会いの為、1ヶ月程台湾に長期滞在していたのですが、滞在中だった3月11日に、あの東日本大震災が発生しました。
台湾での仕事を終え、3月24日に帰国し、一度は取材自体の中止も検討されましたが、最終的に当初の予定通りの日程での決行となりました。

羽田空港から鹿児島空港へ、飛行機輪行

編集長、カメラマンさん、モデルのMOCOさんの3名と羽田空港のANAカウンター前で合流して、輪行バッグに入った車両を、手荷物としてチェックインカウンターで預けます。

当時のTartaruga Type SPORT は、「フルフォールディング」と呼ばれる、前後輪を外して小さく折畳むことしかできない時期でしたが、小さく畳めるため、ANA利用の場合、チェックイン時に申出れば、「フルフォールディング」したTartaruga Type SPORTがすっぽりと入る、汎用のボックスを無料で利用できるので、こちらを利用しました。

自転車と旅タルタルーガANA
ANA利用の場合、チェックイン時に申出れば、「フルフォールディング」したTartaruga Type SPORT がすっぽりと入る、汎用のボックスを無料で利用できる
羽田から鹿児島へフライト、到着後荷物を受け取り、鹿児島空港からは空港リムジン
バスで川内駅へ向かい、川内駅構内で駅弁を購入して、11時27分発の「肥薩おれんじ鉄道」に乗込み、一路折口駅を目指しました。
折口駅で降り、自分が乗る Tartaruga Type SPORT DX と、モデルさんの乗る GT を組立てます。

それまで、台湾や海外での展示会に、幾度となく試作車両等をハンドキャリーした際に、チェックインカウンターで「タイヤの空気は抜いてありますか?」と、毎回聞かれていました。
海外旅行のお土産に買った、ポテトチップス等の袋物を機内に持ち込むと、上空でパンパンに膨れてしまった、という経験は有りませんか?
上空では、気圧の関係で膨張が発生するため、空気を抜いておかないと、タイヤがパンクする恐れがあるのです。
国内の飛行機輪行は、初めてだった私は、両車両の空気を抜いて来たため、4本のタイヤへの携帯ポンプでのポンピングで、出発前にも関わらず、かなりの体力を消耗してしまいました。

同行している、編集長とカメラマンさんも、皆自転車での移動で、各々の車両を組立てていたのですが、空気を入れる事なく、そのまま組立てていたので、気圧によるパンクの話をすると、「いや、特に気にした事無いですね。」との事でした。
後日、この気圧よるパンクリスクの事を調べたところ、国内線と国際線では飛行する高度が異なるため、比較的低い高度を飛ぶ国内線では、それ程シビアに気にする必要は無いとの事のようです。
今では、国内線での飛行機輪行の場合、私も全く気にしなくなりました。
全員分の車両の準備が整い、長島を目指していよいよ自走開始です!

黒之瀬戸大橋

折口駅周辺は、とてものどかなローカル空間で、フラットなコースが続き、のんびりとしたサイクリングが楽しめます。
しばらく行くと、鹿児島本土と長島を結ぶ、黒之瀬戸大橋が見えてきます。

鹿児島本土と長島を結ぶ、黒之瀬戸大橋全景
この橋が開通したのは1974年で、それまでは定期船での行き来だったそうで、当時の鹿児島では、とても大きなニュースになっていました。
開通当時、小学3年生だった事になる私は、家族皆んなでドライブを兼ねて、わざわざこの橋を渡りに来たことを、かすかに記憶しています。
全長500メートルを超えるこの橋は、子供だった私には超巨大な建造物に思えた物ですが、今回改めて見ると、「こんなもんだっったけ?」的に写りました。
因みに、この橋の掛かる黒之瀬戸は、「日本三大急流」のひとつに数えられる海峡で、海面には渦潮がみられます。
自転車で渡る事も普通に可能で、あっという間に長島へと入りました。

坂、坂、坂

今日のコースは、折口駅をスタートして、長島研醸の工場見学、今夜の宿である夕暮荘までの、約40キロ弱のコースとなります。
撮影等の取材を絡めた、実質半日のコースとしては、丁度良い位の距離ではないかと、この時点までは思っていました。
黒之瀬戸大橋の開通当時訪れた、かすかな記憶と、先に作ったGoogle Map のコースイメージから、かなり走りやすい、フラットなコースだと勝手に思い込んでいた私に、大きな試練が訪れます。

折口駅から黒之瀬戸大橋を渡るまでは、まさにそのイメージ通りのコースでしたが、長島へ渡り間もなくして、右へ大きく鋭角に曲がった辺りから、様相が変わって来ます。
最初は緩やかな坂が延々と続き、次第に斜度がジワジワと上がって行きました。
もともと登り坂が苦手な私は、軽いギアでクランクをクルクル回して、ただひたすらペダルを漕ぎます。
今登っている坂の頂上を超える度に、そこからのフラット、願わくば下り坂の路面を期待しますが、少し先の次の登り坂が目に飛び込んで来ます。
次第に、心が折れそうになりますが、ここで折れるわけにはいきません。
心にムチを入れながら、ペダルを漕ぎました。

周りを見ると、編集長もカメラマンさんも四苦八苦されているので、自分だけが極端に足が弱い訳では無いようで、かなりキツイ登り坂なのは確かです。
ところが、GT に乗るモデルのMOCOさんただ1人が、涼しい顔でスイスイと何でも無いように登りながら、時折「皆んな、頑張って〜」と声を掛けたり、「先を見て来ますね〜・・・ この先も、また登りで〜す。」などと、このコースを物ともしません。
さすがは、Tartaruga Type SPORT GT、Grand Touring は伊達じゃない!
と、思いたいところなのですが、自分の乗る DX とギア比は同じはず・・・・
そうです、MOCOさんの足が凄いのです。
聞くと、MOCOさんは、東京都主催のヒルクライムレースで、優勝経験もある健脚の持ち主でした。

今回の最大の敗因は、コース作りの際に、Google Map を使ったため、平面的な距離しか考えていなかった事でした。

自転車と旅タルタルーガマップ
Google Map で制作したコース案
実際のコースには、アップダウンと言う要素がある訳で、MOCOさんレベルの、健脚があれば話は別ですが、コースを作る際には、このアップダウンの情報も十分に考慮しないと、今回の私の様な目にあってしまうと言う、大きな教訓を実践で学ばされました。

長島研醸

延々と続いた登り坂を超え、やっとの思いで長島研醸に到着しました。
この会社は、長島内にある5つの蔵元が共同で作った会社で、それぞれで作った焼酎を持ち寄り、ブレンドして各商品を製造しています。

自転車と旅タルタルーガ
長島研醸の「さつま島美人」瓶詰め工程

「さつま島美人」が最も有名な商品で、鹿児島県内のみならず、全国的にも人気のある焼酎です。
また、島内限定の「島娘」も有名で、長島に来た記念やお土産としても喜ばれています。
私も、焼酎工場の内部見学は初めての経験でしたが、自分の好きな「さつま島美人」がブレンドで出来ていたことが、最も驚きでした。

夕暮荘

長島研醸を出て、今夜の宿「夕暮荘」へ向かう道中も、やはり大きなアップダウンが続きました。
しかも、さっきまでいい天気だった空模様までも、急激に黒い雲が広がり、ポツポツと小さな雨が降り始めました。
疲れ切った体にムチを打ち、何とか夕暮荘へとたどり着いた瞬間に、土砂降りの雨と変わりました。
まさに、間一髪でした。

今回の宿泊地を決めるにあたり、鹿児島に住む親父に「長島に行くんだけど、オススメの民宿とかある?」と質問したところ、即答されたのがこの「夕暮荘」でした。
「あそこは、料理がよかど!」と言うのが、オススメの理由でした。
親父の言葉通り、「これは凄い!」と皆が口にする程の豪華な食事が、食べきれない程の量出てきました。

自転車と旅タルタルーガ
夕暮荘の夕飯は、TOP画像の伊勢海老入りお造りをはじめ、味も美味しく食べきれないほどのボリューム
ヘトヘトになりながらも、途中でしっかりと購入した、島内限定の「島娘」のお湯割りとも実に良く合い、今日1日の苦労談義に花を咲かせながら、皆で明日への鋭気を養ったのでした。

つづく