「Type SPORT」誕生 その7(最終回) Type SPORTに込めた思い

「Type SPORT」誕生 その7(最終回) Type SPORTに込めた思い

前回の、ハンドルとステムの話の際にも触れましたが

ロードレーサーに代表される、スポーツ自転車の世界は、レースを中心とするその長い歴史の中で、もっとも効率が良いとされる、セオリーの様なものが出来上がってきました。
あくまでも、レースがベースになっているので、基本的にA地点からB地点への移動を、いかに速く、いかに効率よく走れるかという点に特化して、進化してきた世界ですので、車両の軽さこそが正義という、とてもシンプルでキャッチーな価値観で、評価されてしまいがちです。

勿論、軽さを追求した車両の加速感やスピードは、とても大きな魅力であり、ストイックにレースで勝つことを目的にしたり、A地点からB地点への、速くて効率のいい移動を目的にしたりするのなら、とても正しい選択だと思います。
軽さを追求した車両の多くは、様々な機能をそぎ落とすことで、1gでも多くの軽量化を実現する事になります。
また、世の中には、こういった商品を作って、販売しているメーカーやブランドは、それこそ山程あり、こういった商品が欲しい方は、そこらから選べばいいわけです。

正直、私がそういった類いの商品を作る意味は、何処にも無いと考えています。
折角作るのであれば、シンプルに、私にしか作れない商品を作りたいからです。

一定の距離を置く事で、見えてくるもの

前職の、株式会社ナムコ在籍中もそうでしたが、私はマニアックな考え方や常識から、一定の距離を置く事で見えてくるものがあると、常々思っています。
アミューズメントマシンの開発に従事していると、周りには「ゲームマニア」と呼べる様なメンバーが、数多くいました。
彼らの、ビデオゲームに対する思い入れは、とてつもなく深く、その情熱には凄まじいものがありました。
しかし、全てが彼らの様なマニアを満足する事を目的に作ってしまうと、そうでは無い一般の人々には、あまりにハードルが高すぎて、入ってくることができなくなってしまいます。
そこで私は、できるだけゲームから距離を置き、常に客観的で多元的な物の見方により、様々な物事を判断する様に心掛けていました。
その結果、バランスの取れた製品の開発に、数多く貢献できたのではないかと思っています。

この考え方は、私の手がけた全ての弊社Tartaruga 製品にも通じています。
特に、Tartaruga Type SPORT では、その奇跡的ともいえるバランスで、車両に乗って、「ただ走る事だけが目的」なのでは無く、「この車両で走って、何をするのか?」と言う点を、突き詰めたいと考えました。

タルタルーガ自転車タイプS
長距離ライドも難無くこなし、たっぷりの荷物も快適に運べる「自転車のSUV」
その為のコンセプトこそが、「自転車のSUV」なのです。
その為の、乗り心地であり、その為の、荷物を運べる専用キャリアーであり、様々な拡張性です。
勿論、走りの性能自体も、「この見かけで、何これ!」と、御試乗された方々が感嘆される、20インチの小径車とは思えない、ロードレーサーにも引けを取らない、それでいてマイルドな、独特の走行性能を確保しています。
その結果、街中での使い勝手と言う点では、最高の街乗り車であり、旅での使い勝手と言う点では、最高の旅自転車と呼べる、高い使い勝手と、長距離走行の性能を持つ車両に仕上がりました。

それは、スポーツ自転車未経験の方や、普段あまり自転車には興味がない方にお乗りいただいても、充分にその楽しさをご理解いただけて、使えば使うほど、更にその面白さが広がって行くような、乗り物を目指したからです。
それが私の考える、エモーショナルで、エンターテイメントな乗り物です。

「Tartaruga Type SPORT」発売

タルタルーガ自転車タイプS
2005年の台北国際自転車展で「REACH」と共に同時発表された「Tartaruga Type SPORT」
これまでお話をしてきた、Tartaruga ならではの、様々な提案を盛り込み、遂に「Tartaruga Type SPORT」(タルタルーガ タイプ ‘スポルト’)が完成し、2005年3月に開催された、台北国際自転車展のPacific Cycles 社ブースで、「REACH」と共に同時発表し、同年7月に発売を開始しました。
2005年の発売開始以来、Tartaruga Type SPORT もまた、生産の度に細かなブラッシュアップを重ね、フレームの剛性の強化や、使い勝手の向上など、着実に熟成が進んでいます。
また、専用オプションパーツも充実して、「この車両を使ってできる事」も、更に増えてきました。

ありがたい事に、Tartaruga Type SPORT をご購入いただき、ご使用されている多くのユーザーの皆様から、その使い心地がいかに快適で、楽しかったかとの御感想を、数多くいただいており、私の込めた思いが、確実にお客様に伝わっている事を、実感しています。

Pacific Cycles 社の REACH は、その後2度のフルモデルチェンジを受け、よりロード色と競技色の強い商品へと移行していきましたが、弊社では色々な意味で、最初のコンセプトを堅持しいているため、今では Tartaruga Type SPORT と REACH は、全く異なるキャラクターの商品となっています。

キャッチーではない、「深い味わい」を伝えるために

軽さを追求した車両の、「重量わずか何g!」と言った数値や、軽さがもたらす瞬発力的な爽快さは、短時間の試乗でも、充分に大きなインパクト共に、商品イメージを、一気に良いものに押し上げてくれます。
それに対して、Tartaruga Type SPORT の持つ良さは、考え抜かれ、熟成された多くの要素が、複雑に作用し合い生まれる、絶妙なバランスがもたらす、「深い味わい」の様なものだと言えます。
この「深い味わい」が、たっぷりと詰め込まれた、Tartaruga Type SPORT の本当の価値は、「軽さ!」に代表される、シンプルでキャッチーな、わかりやすい一言で伝えることが、とても難しく、この深い味わいをどうやったら一人でも多くの方々に、伝えることができるのか、日々思案しています。

このブログが、その一端を担えれば、心から嬉しく思います。