「Type SPORT」誕生 その2  そしてType SPORTへ

「Type SPORT」誕生 その2  そしてType SPORTへ

2004年のEURO BIKEに持ち込まれた、試作サンプル車両

に強い興味を掻き立てられた私は、その後、正式に社外開発メンバーとして、このプロジェクトに参加する事になります。
製品名も「REACH」と決まり、基本的なコンセプトやジオメトリーは、既にある程度出来上がっていましたが、細部に関しては、量産に向けてクリアーしなければならない課題も多くありました。
私は、主にデザイン的なアプローチの改善を担当することになりました。

フレームシルエット

試作車両では、Pacific Cycles 社創業者ジョージ・リン氏の持つ、膨大な小径車制作の経験と実績から、小径車の理想的な “ジオメトリー”(サドル、ハンドル、ペダル等の位置関係や、ヘッドチューブの角度など)が具現化されており、その結果、ユーロバイク会場で感じた、あの感動的な走行性能を実現していました。
この試作車両では、その理想的な“ジオメトリー”をベースに、小柄な人でも乗れる事を意識して、スローピングスタイル(トップチューブ手前下がり)のフレームシルエットを採用していましたが、これ程の走りを売りにするのであれば、見た目でもスポーティーさを強調すべきだと考えた私は、そのアイコンとして、ホリゾンタルスタイル(トップチューブが水平)への変更を提案、ジョージさんとの議論の末、採用となります。

リアサスペンション

小径車の宿命として、700C 等のフルサイズのタイヤ径の車両と比べると、どうしても乗り心地は固くなってしまいます。
車輪に使用しているスポークは、僅かにたわむ事で、乗り心地の向上に一役かうのですが、小径車ではそのスポークの長さが短くなる為、たわみ量が大きく減少します。
フロントフォークも短くなるので、同様にたわみ量が減ります。
フレームもアルミフレームですので、クロモリ等の素材に比べて、素材の特性として、とても硬い乗り心地となります。
硬い車輪に、硬いフロントフォーク、硬い素材のフレームの組合せとなる為、このままでは乗り心地が非常に硬くなってしまいます。
そこで、前後にサスペンションを付ける事で、この問題を解決することになりました。

フロントサスペンションについては、次回、詳しく話させていただきますので、今回はリアサスペンションについてのお話です。
EURO BIKE 2004に展示した最新の試作車両には、市販のエアーサスペンションを装着していましたが、メンテナンス性とコスト面で、量産ではエラストマー(ゴムの様な樹脂)を使ったサスペンションを採用する事になりました。
Pacific Cycles 社では、birdyをはじめ、エラストマー製のリアスペンションを採用した商品を、既に多く製造しており、エラストマーの最適硬度の選択等、十分なノウハウを持ち合わせていたので、機能的な面に関しては直ぐに仕様も決まり、サンプルも短期間で製作できました。
しかし、軽量化を優先して、上の画像のデザインで進んでいました。
これに対して、製品としての完成度を上げ、より高級感を出すために、アルミ素材による最低限のケーシングを追加する事で、外観をエアサスの様に見せる提案を行い、採用となりました。

また、リアサスペンションの全長も、軽量化の為にEye to Eye(リアサスペンションの上下にある、取付け穴の中心間ピッチ)110㎜と、短くする案で進んでいましたが、購入後のユーザーが、エアサス等へのカスタマイズをしたい場合の、互換性を確保できる最低限のサイズとして145㎜を提案し、こちらも最終的に採用となり、リアサスペンションに関する図面や、アルミケーシングに張り付けるステッカーのグラフィックデザインも含め、デザインを行いました。

リアサスペンション

余談ですが、このグラフィックデザインには、ちょっとした隠しアイテムを仕込みました。
サイドビューでのプレゼンを行い、採用された最終案ですが、このステッカーを張ったリアサスペンションを立体的に見ると、「亀」(Tartarugaとは、イタリア語で「亀」の事です。)に見える様デザインしてあります。

「REACH」完成、そして「Type SPORT」へ

この様な作業を経て、フレームのカラーリングやグラフィックデザインが、Pacific Cycles 社社内デザインによる、REACH の最終試作車両が完成します。

REACH の最終試作車両

早速試乗すると、その走行性能は、前回の試作車両を更にブラッシュアップしたものに、仕上がっていました。
その最終試作車両の周りを一周しながら眺めると、自分で言うのも変な話ですが、「Tartaruga(ヨシマツ?)テイストの強い形状となったな~~。」と、改めて感じた私は、ジョージさんに一つの提案をしてみました。
「これのTartaruga バージョンを作ってもいいですか?」
ジョージさんの答えは、「ここまで協力してくれたんだから、いいよ、やってみなさい!」でした。
こうして、私は Type SPORT の開発に着手しました。

つづく