「Type FOLDING」誕生 その1 コンセプト編
- 2018.03.20
- タルタルーガ
- Type FOLDING, 自転車, 開発
企画始動
1999年、当時私は株式会社ナムコに勤務していて、ゲームセンター向けの体感ゲームと呼ばれる、プレイヤーが実際に乗り込んで操作するような、比較的大型のアミューズメントマシンの開発部署に所属していて、筐体(きょうたい)と呼ばれるキャビネットのデザインをメインに、グラフィックや企画内容なども含む、開発業務全般に関わっていました。
体感ゲーム機(プレイヤーが乗込んだキャビネットが、ゲーム画面に合わせて動く様なタイプのアミューズメントマシン)の 一つの絶頂期を迎えていた時期でもあり、仕事自体には大変なやりがいと満足感を感じていましたが、長い開発期間を費やして、様々な思いを詰込み、手塩に掛けて生み出した、数多くのアミューズメントマシン達が、殆どのプレイヤーから全く大切に扱われる事無く、人気のある機種であればある程、設置されているゲームセンターで、早々に朽ちていく様を常々目にしていた為、購入後もユーザーから大切に扱われる、コンシューマー向けの商品開発にも、とても興味がありました。
そこで、前回 にも書いた通り、当時自分の持っていたアミューズメントマシン開発のノウハウを活かした、新しい乗物を作ってみたいとの思いを、いくつかの企画書にまとめ、部内プレゼンを行い、運良く企画書が認められ、「スタイリッシュな折畳み自転車」の企画が、社内ベンチャーとして始動することになりました。
簡単に折畳みができる、斬新でかっこいい自転車を作る。
折畳み方法は、横方向ではなく縦方向にワンタッチで畳める。
この2点が、「乗ってワクワクするヒューマンパワーの新しい乗り物」を作る為に、私が最初に目標に掲げたシンプルな、コンセプトでした。
このコンセプトを具現化するために、数多くのスケッチを描きまくりました。
しかし、描いても描いても、自分が納得のいく「カタチ」に中々巡り合うことができません。
何かに似ていたり、折畳みのシステムが先行してかっこよくなかったり・・・
スケッチを描き続けましたが、なかなか良いアイデアが浮かばず、時間だけが流れて行きました。
そんなある日、アミューズメントマシンの型確認に向かう電車の中で、それは突然「ひらめき」ます!
キラキラしたアルミ製のセンターブロックから前後のフレームが伸び、このセンターブロックを中心にフレームが折畳める、背もたれが標準装備された自動車のシートポジションの様に乗れる、自転車の「かたち」が脳内に浮かんだのです。
電車のシートに揺られながらも、ひらめいたイメージが消える前に、慌てて手持ちのノートにスケッチを走り書きしました。
その時、走り書きしたスケッチこそ、Tartaruga Type FOLDING の原型となります。
その日オフィスに戻ってから、サクッとまとめたスケッチが上の画像です。
「ひらめき」をより詰めていく
このアイデアがひらめいた時点では、世の中には「リカンベント」と呼ばれる自転車があり、「大きなシートに背もたれが付いていて、人間の持つ筋肉をとても効率よく使ったペダリングができると言われている。」この程度の知識は持っていました。
ただ、私自身リカンベントに乗った事は一度もありませんでした。
そこで、東京近郊でリカンベントに試乗ができるお店を探してみますが、全く見つかりません。
当時入手できた、数少ない画像と情報から、想像するしかありませんでした。
アーケードゲーム開発のスキル
ここで、アーケードゲーム開発のスキルがとても役に立ちました。
それまで、F1 やバイクのレース、ジェット戦闘機でのドッグファイト、ラフティング(激流下り)、果てはスペースバトルシップ(宇宙戦闘)など、様々なテーマのアーケードゲーム開発に携わってきました。
その結果、それぞれの世界観により没入する重要な要素の一つが、操作ポジションだという考えを持っていました。
アーケードゲーム開発の際には、実際に乗り込んだり、操作が可能なケースの場合は、極力、試乗に行ったり体験会に参加したり、レース会場へ出向き会場の雰囲気を感じたりしますが、それがかなわないケースの場合は、入手可能な情報をベースに、イマジネーションを駆使して分析して、脳内補完しながら想像するしか手段がありません。
後に、実際に様々なリカンベントに乗る機会が何回かありましたが、私が当時想像していた感覚は、見事に的中していました。
目指すべき新しい感覚の乗物
「リカンベント」を作る事が目的ではありませんが、「リカンベント」の持つアドバンテージの部分を、誰にでもより解りやすく、簡単に享受できる形で、取入れたいと考えました。
言い換えるなら、「リカンベント」と「ママチャリ」のハイブリッドです。
ここで着目したのが以下の点です。
乗車した際に見える景色の解放感と、風の流れを感じられ、風が体をなでながら後ろへと流れていく様な乗車姿勢。
ペダルを漕いだ時の、ダイレクト感。
目線位置が下がる事による、レーシングカートに乗ってサーキットを走行した際にも感じた、乗車時の路面の近さが生み出す実速以上のスピード感。
これらのメリットに対して、デメリットである置き場に困る全長を、折畳むことでコンパクトにできる点と、乗れるようになるまで、かなりの練習時間を要する、操作性の難しさを、普通の自転車に乗れるスキルを持った人なら、数分の練習で直ぐに乗りこなせる様な、簡単な操作性とする事で、自分の目指す「新しい感覚の乗物」が作れるという確信を持つに至りました。
つづく
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