「Type SPORT」誕生 その3 フロントサスペンション 1
- 2018.04.20
- タルタルーガ
- Type SPORT, 自転車, 開発
Type SPORTの開発に関する、具体的なお話をする前に
Type SPORTにも採用している、初代「REACH」のフロントサスペンションに関するお話を、ここでしておきたいと思います。
Type SPORTの商品キャラクターを語るうえで、このフロントサスペンションは「核」と言っても過言ではありません。
その為、お伝えしたい事も多く、2回に分けてお話します。
当初のプラン
リアサスペンションに関しては、Pacific Cycles 社では、既に様々な製品で、エラストマー製のリアスペンションを採用していましたので、ノウハウも十分あったのですが、フロントサスペンションに関しては、あまりその開発経験がありませんでした。
フロントサスペンションに、折畳み機能が必要な場合等の、特殊なケースを除けば、世の中には数多くのフロントサスペンションメーカーがあり、多種多様なフロントサスペンションが既に存在していて、使用するタイヤサイズが決まれば、仕様的にいくつかの候補を選び、実際に取付けて走行してみれば、大抵は、満足できる商品を見つけることができるからです。
「REACH」の開発過程においても、当初、我々はこの考え方で、容易に既存の製品から、最適なフロントサスペンションを探し出せると考えていました。
仕様的に良さそうなフロントサスペンションを、いくつもいくつも取寄せ、試作フレームに取付けて、走行してみますが、我々の理想とするサスペンションは、なかなか見つかりませんでした。
我々の求める理想的なフロントサスペンション
「折畳めるロードレーサー」を目指して、その開発がスタートした「REACH」は、走行性能を出来るだけ高めた上で、折畳んだ際のサイズを、出来るだけ小さくする為に、タイヤサイズに451(20インチ)を選択した訳ですが、小径車の宿命として、どうしてもその乗り心地は、フルサイズのタイヤ径の車両と比べると固くなってしまいます。
前回と重複しますが、この点はとても大切な部分ですので、あえてもう一度説明すると、車輪に使用しているスポークは、僅かにたわむ事で、乗り心地の向上に一役かうのですが、小径車ではそのスポークの長さが短くなる為、たわみ量が大きく減少してしまいます。
フロントフォークも短くなるので、同様にフロントフォーク自体のたわみ量も減ります。
今回のフレームとフロントフォークの素材は、アルミですので、クロモリ等の素材に比べて、素材の特性としても、とても硬い乗り心地となります。
また、スピードを出すために、タイヤサイズ451でも110PSIまで空気圧をあげられる、細め(1-1/8インチ)でかなり高圧のタイヤを採用した為、乗り心地は更に固くなります。
硬い車輪に、硬いフロントフォーク、硬い素材のフレーム、更には硬いタイヤの組合せとなる為、このままでは、「とてつもなく硬い」乗り心地となってしまいます。
その解決策として、前後にサスペンションを付ける事になったわけですが、「ロードレーサー」的な走りに必要なサスペンションは、どういうものなのかを、改めて見極める必要がありました。
あくまで、オンロード(アスファルトで舗装された路面)での使用を前提としているので、同じサスペンションでも、マウンテンバイクのサスペンションの様な、ストローク(稼働する長さ)が大きく、柔らかい、フワフワした感じのサスペンションは必要ありません。
逆に、この様なサスペンションを装着してオンロード走行すると、ペダルを踏みこんだ力まで吸収されてしまう為、ペダリングに大きなロスが発生して、「漕いでいるのに、なかなか進まない。」車両になってしまいます。
ロードレーサーには、本来サスペンションは付属しておらず、その乗り心地は、前出の通り車輪のスポークやフロントフォーク、フレームの「たわみ」によってもたらされる訳ですから、決して「柔らかい」ものではありません。
その分、フレームの軽量化と、ペダリングのダイレクト感をもたらしくれる訳ですが、走行する路面は、オンロードとはいえ、ガラスの表面の様にスムーズなわけではなく、細かな凹凸や、ちょっとした段差などが無数にあり、これが、路面からの微振動や突き上げとなります。
結果、距離を走れば走るほど、ライダーにはこれらの微振動や突き上げが容赦なく襲い掛かり、蓄積疲労へとつながります。
これらの振動を少しでも軽減するために、パッド入りのレーシングパンツを履いたりますが、基本的にこれらの衝撃や振動は、自らの体を鍛えて、受け止める事になります。
ガチガチのロードレーサーを作りたいわけではないので、この「たわみ」レベルの衝撃吸収よりも、ほんの少し柔らかい位の乗り心地が、我々の目指すべき乗り心地となります。
それは丁度、サスペンションのない硬いフレームに、太いタイヤを履かせた時の様な乗り心地でした。
ただ、実際に太いタイヤを履かせると、路面からの抵抗が増えて、スピードが犠牲となってしまうため、あくまで高圧で、細いタイヤを履かせたうえで、その乗り心地を再現する事が必要だという事になりました。
しかし残念ながら、その様なフロントサスペンションは、当時、既存のサスペンションメーカーでは作っておらず、自分たちで作るしかないとの結論にいたりました。
つづく
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