「Type SPORT」誕生 その4  フロントサスペンション 2

「Type SPORT」誕生 その4  フロントサスペンション 2

アスファルトで舗装された路面からくる、細かな微振動

を吸収して、歩道と車道のスロープ部にあるような、1~2cmの段差を越える時には、ガツンと作動して衝撃を吸収する。
サスペンションの付いていない硬いフレームに、太いタイヤを履かせた様な乗り心地をめざし、フロントサスペンションを、自分達で作ることを決めた我々は、早速その開発に取り掛かりました。

「あらがう」ことなく「いなして」やる

車輪のスポークやフロントフォーク、フレームの「たわみ」+ α レベルの、僅かな動きを目指すわけですので、そのサスペンションはそれ程動く必要はありません。
そこで、我々の作るオリジナルフロントサスペンションには、既に技術的な蓄積もあり、リアサスペンションにも採用した、「エラストマー」という素材が、ほぼメンテナンスフリーでも大丈夫という特性も含め、向いているとの結論にいたります。
では、そのエラストマーを使用したサスペンション機能を、フロントフォークのどこに、どの様に仕込むのかという事になりました。

そこで、吸収すべき微振動や、1~2cmの段差を越える時の衝撃が、どの様に前輪に加わっていくのかを検証すると、こういった力は車両に対して前方からやってきて、下から上へと突き上げる様に作用しています。
これらの力に対して、「あらがう」ことなくスムーズに受け止めて、「いなして」やればいいわけです。
様々な検討を重ねた結果、前輪の取付け位置(フロントハブの中心)から前方へ短いアームを延ばし、その先端に一方向にだけ「ねじれる」、サスペンション機構を設けてやることで、解決可能であるとの結論にいたりました。

「ねじれる」ユニット作り

早速、その「ねじれる」ユニットをPacific Cycles 社で設計して、アルミブロックからCNCマシンで削り出し、同じく新規設計した半月形状のエラストマーを組合せて、サンプルを作製しました。
タルタルーガ自転車タイプSフロントサスペンション

タルタルーガ自転車タイプSフロントサスペンション
CNC製作した二つのリングを合わせた状態

簡単にユニットの構造を説明すると、二つのリングを合わせて、そのリングからはお互いの隙間に差し込まれるピン状の突起があり、この二つのリングに「ねじる」力(お互いが、逆方向に回転しようとする力)が加わると、この突起が、残った隙間に圧入されている、半月形状のエラストマーを押すことで、サスペンションとして機能するという構造です。
ユニットを構成する各パーツには、非常に高い製作精度が要求されますが、試験の結果ちゃんと機能しました。
カセット化したこのユニット2個を、フロントフォーク先端と、そこから後方へ延びる短いアームの接合部に、左右に1個ずつしっかり固定してあげることで、我々が理想とするフロントサスペンションが完成しました。

前出の通り、非常に高い製作精度が要求される、サスペンションユニットのカセット化に必要なこれらのパーツは、全てアルミブロックからCNSマシンで、一点一点切削して製作し、そのカセット化したユニットを取付ける、フロントフォークの接合部とアーム部は、アルミ鍛造により製作した専用部品に、更にカセットの取付け部分を、CNSマシンで一点一点切削し、製作する必要がありました。

パラレルに作動させるために

作動した感触は、理想的なサスペンションユニットが完成しましたが、ハンドルバーに対して真上から均等に力を加えると、左右のアームは一緒に連動してパラレル(平行)に上下に動くのですが、ダンシング時の様にハンドルバー両端を持ち、左右逆方向へ上下動させると、左右のアームもそれぞれが逆方向へ上下動するため、その結果、前輪が左右へスイングしてしまいます。
また、この構造で前輪が上下すると、フロントフォーク本体に対して、前輪が上下に動くため、フロントブレーキの取付け位置もありません。

タルタルーガ自転車タイプSフロントサスペンション
フロントフォーク上部のリンク機構とフロントブレーキマウント

そこで、リンク機構を追加して、稼働する左右の短いアームの先端同士をつなぎ、フロントフォーク上部に更にリンク機構を設けて、左右のアームの動きを制御することで、パラレルに動くようにしました。
この上部リンク付近に、フロントブレーキを取付けることで、フロントブレーキの取付け位置の問題も解決できました。
こうして、本当に自分達が理想とする、オリジナルのフロントサスペンションが完成しました。

軽量化よりも「乗り心地」を優先しました

ここまでお読みになって、「そんな複雑な事をしたら、車両が重くなってしょうがないだろう。」と思われた方も多いのではないでしょうか。
勿論我々も、重たい車両を作りたい訳ではないので、充分な強度と剛性を確保したうえで、可能な限りの軽量化を図っています。
このフロントサスペンション機構を省略して、カーボンフォークなどに変更すれば、簡単に軽量化も図れます。
実際、どうしても軽量化をご希望されるエンドユーザー様からのご要望を受け、Type SPORT には、専用カーボンフロントフォークもご用意しており、こちらに交換していただく事で、700g以上の軽量化が簡単に図れます。

それでも尚、このフロントサスペンションにこだわり、純正として使用し続けているのは、一重にこのフロントサスペンションによってもたらされる乗り心地が、我々の理想とする乗り味であり、この乗り味こそが、Type SPORT の最大の武器だと考えているからです。
おかげさまで、Type SPORT の乗り心地の良さは、お乗りいただいた多くの方々から、賞賛されています。

機会がありましたら、是非ご試乗いただき、「硬いのに軟らかい」と称される、イタリアン高級クロモリフレームにも似た独特の乗り心地を、ご自身でご体感いただけると幸いです。

つづく